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不正指令電磁的記録に関する罪の法案審議時における、法務大臣答弁

2019年3月6日

不正指令電磁的記録に関する罪は、2011年に法律が施行された。刑法の次の条文がそれに相当する。

第十九章の二 不正指令電磁的記録に関する罪
(不正指令電磁的記録作成等)
第百六十八条の二 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3 前項の罪の未遂は、罰する。
(不正指令電磁的記録取得等)
第百六十八条の三 正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

但し、参議院に於いて、以下の通り付帯決議が成されている

    情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議
  政府は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
 一 不正指令電磁的記録に関する罪(刑法第十九章の二)における「人の電子計算機における実行の用に供する目的」とは、単に他人の電子計算機において電磁的記録を実行する目的ではなく、人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせない電磁的記録であるなど当該電磁的記録が不正指令電磁的記録であることを認識認容しつつ実行する目的であることなど同罪の構成要件の意義を周知徹底することに努めること。また、その捜査等に当たっては、憲法の保障する表現の自由を踏まえ、ソフトウエアの開発や流通等に対して影響が生じることのないよう、適切な運用に努めること。
 二 記録命令付差押えについては、電磁的記録の保管者等に不当な負担を生じさせることのないよう十分留意するとともに、当該記録媒体を差し押さえるべき必要性を十分勘案した適切な運用に努めること。
 三 通信履歴の保全要請については、憲法が通信の秘密を保障している趣旨に鑑み、その必要性及び通信事業者等の負担を考慮した適切な運用に努めること。
 四 サイバー犯罪が、容易に国境を越えて行われ、国際的な対応が必要とされる問題であることに鑑み、その取締りに関する国際的な捜査協力態勢の一層の充実を図るほか、捜査共助に関する条約の締結推進等について検討すること。
 五 本法の施行状況等に照らし、高度情報通信ネットワーク社会の健全な発展と安全対策のさらなる確保を図るための検討を行うとともに、必要に応じて見直しをすること。なお、保全要請の件数等を、当分の間一年ごとに当委員会に対し報告すること。
   右決議する。


ここでは、法案審議時における、江田五月法務大臣(当時)の答弁の中から、不正指令電磁的記録をどう定義しようとしているかに関連したものを抜粋して取り上げたい。なお、答弁のうちここで取り上げるか否かについては、著者の主観が入っているので、客観的に法案審議時の様子を知りたい方は、直接議事録を閲覧して頂きたい。衆議院は5/25, 5/27, 5/31、参議院は6/7, 6/9, 6/14, 6/16の審議が、それである。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/177/0004/main.html
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/177/0003/main.html

法務大臣の答弁のうち、不正指令電磁的記録の定義に関連するものだけをピックアップした。他に、サイバー条約、憲法で保証された通信の秘密、業者によるログの管理なども議論されているが、ここでは割愛している。なお、括弧内は筆者による解説。

5/25

 コンピューターウイルスというものの定義、これも、私もどうもこういうところはそれほど詳しい知識を持っていないので、定義を定めるのは難しいことだなと思いますが、しかし、さまざまな文言を使ってコンピューターウイルスというものを定義しており、そして、このコンピューターウイルスの持っている社会的な危険性、これはやはり今看過できないものがある状態になってきている。コンピューター秩序というのが単に国内だけじゃなくて国際的にも広がって、そして、もう本当に社会生活を営む上での大変重要な社会的な基盤となっているので、この信頼はこれは確保していかなきゃならぬということで、危険犯として、通貨偽造の罪とか文書偽造あるいは有価証券偽造など、言ってみれば、そういうものと並ぶ形でコンピューターウイルス作成罪というものをここで出したわけでございます。

5/27

 ウイルス作成罪の既遂時期ということですが、これは不正指令電磁的記録等の作成というものは何かということで、作成というのは、当該電磁的記録等を新たに記録媒体上に存在するに至らしめる、こういう言い方でございまして、もうちょっと平たく言いますと、人が電子計算機を使用するに際して、その意図に沿うべき動作をさせず、また意図に反する動作をさせる、そういう不正な指令です。これを機能し得る内容のものとして実質的に存在するに至らしめたと。
 存在するというのは何か、これは記録媒体上に存在させるに至らしめたということで、そこで既遂となるということでございまして、記録媒体上に置いたけれども、できが悪くて、いろいろな指令を出すという機能が全然達成できないようなもの、これはまだ既遂には至っていない。未遂で罰するということも考えられないわけじゃございませんけれども、そんな不十分なもののところまで捕らえて未遂で罰するということはなかろう、こういうことでございます。

 コンピューターウイルスの定義は、今委員が御指摘のとおり、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令」、その意図というのはだれを基準にするのかという御指摘かと思いますが、この罪は、電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼、これを保護法益とするわけでありまして、それぞれの個人の信頼とか不信とかという話ではございません。
 電子計算機を使用する者一般の信頼を規範的に判断をしていくということでございまして、プログラムの具体的な機能に対するその使用者の現実の認識を基準とするのではなくて、一般に認識すべきと考えられているところが基準になる、そのように思っておりまして、その判断に当たっては、プログラムの機能の内容であるとか、あるいは機能についての説明内容であるとか、あるいは想定される利用者、あるいは利用方法、こういうことを総合的に考慮することになると思います。

(使用する者一般の信頼を規範的に判断をしていくということに関し、プログラムの使用説明書の記載というのが参考になると考えるかどうかとの質問に対して)
 使用説明書は一つの参考になると思います。

 今具体的な事例をお挙げになっているわけでございますが、利用者の意図に反してデータが消去をされてしまう。利用者としては、今の場合に、天気予想プログラムですか、天気の予想が出てくるものと思ったら、意に反してすべてのデータが消去されてしまうというようなことでございますから、これは、この意図に沿うべき動作を一般的にさせず、また一般的に意図に反する動作をさせてしまう、そういう指令を出す、そうした電磁的記録だということが言えると思いますので、該当するというふうに評価をされる場合が多いのではないかと思います。

 私も、こうしたところに余り詳しい方ではないので、むしろ委員にいろいろ教えていただければと思いますが、フリーソフトというのは何であるかというと、ワープロソフトのように一般的有用性を有するソフト、あるいはそれとも、コンピューターを初期化するソフト、このような利用場面が限定されるソフトなどといったソフトの機能のことをいうんだというようでございます。
 これを利用するとき、どういう表示、説明がされているかとか、あるいは、これがもしウエブページ上で提供されている場合であると、そのウエブページの内容、説明、そうしたものから想定される当該フリーソフトの利用者やあるいはその利用方法、そうしたことを総合的に考慮して判断されるもので、ウエブサイト上、これは消去用のソフトですよということがあれば、そして、それをウエブにアクセスして、消去用のソフトが欲しいなと思っている人が見つけて、それを使えば、これはウイルスになるようなことはあり得ないと思います。

(フリーソフトウエアを公開したところ、重大なバグがあるとユーザーからそういう声があった、それを無視してそのプログラムを公開し続けた場合は、それを知った時点で少なくとも未必の故意があって、提供罪が成立するという可能性があるのかという質問に対して)
 あると思います。

(『大臣は、「正当な理由がないのに、」という文言をつけ加えたことで、濫用の危険は歯どめをつけることができると御答弁されたんですけれども、私は、もっともっと個別具体的に、しかも限定的に適用しないと、捜査当局による濫用の歯どめにはならないんじゃないかな、このように考えておりますが、大臣の御所見をお聞きしたいと思います。』という質問に対して)
 濫用の危険ということでございますが、もちろん私ども、捜査当局の濫用があってはいけない、そしてそれはいけないと精神論を述べるだけでなくて、やはり具体的に濫用を防止する手だてを講じなければいけない、この点は意見は全く一緒だと思っております。
 その上で、目的規定を置いて、しかし、それだけではなお不十分だといういろいろな御意見もございまして、この正当な理由なく、そういうことを入れているわけでございまして、私は、こういう規定によって、この規定を無視して濫用するといえば、これはもう濫用自体がおかしなことになってしまうけれども、こういう規定をしっかり守りながら捜査機関がこの罪の適用を求めて証拠集めなどしていけば、濫用ということにはならないと思っております。

 今、世界がコンピューターネットワークによって結ばれて、本当に、ほぼすべての人の活動の、それが個人的であれ、社会的であれ、経済的であれ、その他のことであれ、インフラになっているわけですね。
 その生活を営む上での重要なインフラに対してコンピューターウイルスが入り込んでくる。私は、本当に詳しくないんですが、今から十年、もうちょっと前でしょうか、インターネットというのが本当に普及をして、しかし、一方でウイルスというのもどんどん普及をして、メールなんかにいろいろなウイルスが入ってくる。これはウイルスに結局負けちゃうんじゃないかという、そんな心配をしたころも今思い返してみるとありました。
 しかし、そこはまさにウイルスとそしてコンピューターネットワークをちゃんと守ろうという者の戦いの歴史だった。いろいろな形でアンチウイルスのソフトができて、幾つもありますよね、その中には、我々が使えるものもあるけれども、恐らく非常に高度なものもある。そういう大変な戦いの中でウイルスを制圧していこうという、これがやはり勝たなきゃいけないので、そのために、産官学という言葉を今挙げられましたけれども、本当にみんなが知恵を寄せ集める必要があると思います。
 そういう、ウイルスによってやられてしまわないように努力をする、一生懸命研究する人たちが、おまえ、コンピューターウイルスをつくっただろうと言われたのではたまったものじゃない、そういうことはよくわかっておりまして、今委員御指摘のとおり、私も、捜査機関に対して、そういう濫用が起きないように厳重に申し上げるようにしていきたいと思います。

 そういう呼び名で今の私どものこのサイバー法案が、半ばやゆされながら、批判をされている、そういう場面があるということは知っております。コンピューターを公権力が監視をして、コンピューターの中での自由な活動を規制するのではないか、こういうことが言われていることも承知をしております。
 しかしながら、犯罪要件の厳格化であるとか、あるいは捜査に当たっての令状主義であるとか、さまざまなことを通じて、そうしたコンピューターというのが常に監視される、そういう社会にならないように、これは私どもも思っておりますので、そこはぜひ、そういう批判をされる皆さんとも有益な対話をしていきたいと思っております。

5/31

 フリーソフトウエア上のバグの問題について、先般、大口委員の御質問で、私は、委員の御質問、可能性があるかと。可能性ということならば、それはあると簡単に一言答えましたが、これが多くの皆さんに心配を与えたということでございまして、申しわけなく思っております。
 これも委員今御指摘のとおりで、私もこうしたことに詳しくありませんが、自分でコンピューターをいじっていて突然フリーズをするとかあるいは文字化けをするとか、いろいろ不都合が起きる、これはどうしてだと言ったら、いや、何かいろいろごみが詰まっているんですよというようなことで、そうしたものであって、フリーソフトウエアの場合にはそういうものがあることを、みんなある程度了解の上でいろいろやりとりをして、しかも、そうしたものがあればこれはなくするようにみんながいろいろな努力をしているので、こういう多くの皆さんの努力でいいものができ上がっているプロセスはあるし、そのことは非常に大切だと思っております。フリーでなくてもそういうことはあるわけです。したがって、そうしたバグの存在というのは、ある意味で許された危険ということがあるかもしれません。
 ただ、そういうバグが非常に重大な影響を及ぼすようなものになっていて、しかもこれが、そういうものを知りながら、故意にあえてウイルスとしての機能を果たさせてやろうというような、そういう思いで行えば、これはそういう可能性がある、そういう限定的なことを一言で申し上げたので、そうした場合でも、その限界はどこかというのは、これはなかなか大変なことでございまして、捜査機関においてそのあたりは十分に慎重に捜査をして、間違いのない処理をしていくものと思っておりますので、無用な心配はぜひなくしていただきたいと思っております。

 濫用防止について、保全要請をする側にいろいろな縛りをかけるということで濫用にわたらないようにしようという努力をしてまいりまして、ここまで歯どめをかけますと、濫用ということは考えがたいと思っております。
 さはさりながら、やはりどの程度の件数、どういうものがあったか、そうしたことを把握して事後的に報告をする制度を設けてはどうだという御指摘については、そういう御指摘をいただいているところでございますが、なかなか、捜査現場の負担のことも考え、また、迅速かつ機動的な捜査に支障が起きるかといったことも考えていかなければいけませんので、そうしたことを総合勘案いたしますと、これが濫用にわたらないよう適正に運用されること、これの周知を十分していき、そして、それを踏まえた上で、運用を見守らせていただきたいと今のところ思っております。

 刑法関係の言葉の定義というものは、罪刑法定主義といった見地からも厳密に使われなければいけないというのは委員御指摘のとおりでございますが、さはさりながら、言葉だけで、内包、外延、一義的に明確だというのがなかなか困難なことはまた事実でございます。
 しかし、可能な限りこれは明確にするようにし、さらに運用においての周知徹底を図るであるとか、あるいはさまざまな解説書等によっていろいろな周知をしていくとか、あるいは運用の中で疑問が生じた場合には、直ちにこれを裁判実務においても、あるいは法の改正などにおいても改めていくとか、そうしたことを繰り返しながらよりいいものに仕上げていかなきゃいけないということであって、今回、不正指令電磁的記録、これは、今委員おっしゃいましたような文言で定義をしているわけでございまして、この定義自体が、通常の判断能力を有する一般人に十分理解し得ないものにはなっていない、これでとりあえずスタートをしていきたいと思っております。

 これは、バグというものが通常はプログラム作成に付随して起きるものだと。したがって、コンピューターをいろいろいじっていると、とりわけフリーソフトウエアなんかの場合にはそういうものもあるものだということは、皆お互い了解済みでやっていることでございまして、そうしたものがコンピューターウイルスに当たるというようなことは、これはあり得ないと思っております。
 ただ、一部に、もし仮に、そのバグというものが電子計算機の機能を麻痺させる、あるいはその作動が容易に回復しないような状態に至らしめるという重要なものであって、そのことを十分知りながら、故意犯としてそうしたものがついているソフトを提供するというようなことになりますと、これはちょっと見逃せないということも起こり得るという意味で、可能性があるということを申し上げただけでございまして、一般のコンピューターの利用者の皆さんが、そうしたことに特に意識をせずに、バグがあっても、もちろんバグをなくするような努力は当然いろいろやっていかなきゃならぬと思いますが、あってもコンピューターを大いに活用していただくことは何ら支障がないと思っております。

6/9

 これは、衆議院の委員会の質疑の際に、バグの関係について質問がありまして、質問もいろんな前提付きだったんですが、時間の関係もありまして、ただ一言あり得るということを答えたら、2ちゃんねるなどで大変な心配が寄せられて、私も、ああ、こんなに多くの皆さんに心配を掛けてしまって本当にこれは申し訳なかったと思い、その後衆議院の段階でも更に詳しいことは申し上げたので、まあ御疑問は氷解しているんじゃないかなと思いたいところなんですが、改めて申し上げますと、今委員が御指摘のような御懸念、これはないとはっきり申し上げておきますので、どうぞ御安心いただきたいと思います。
 今委員が御指摘のように、フリーソフトウエアの世界というものが確かにあって、これはもちろん、無料ですからいろんなソフトウエアがその中にあるわけです。そのフリーのソフトウエアの世界というのをよりいいものにしようといろんな人がそこへ入って様々な努力をする。たまたまそこにいろんなバグというんですか、bug、虫ですか、こういうように表現される不具合の部分があって、それがいろんな不具合を起こす。時にはそれは、私も自分のホームページがフリーズしてしまうなんてこともそれはありますが、ある意味そういう許された危険といいますか、そんなものを承知の上でフリーソフトウエアの世界というものがだんだん開発され、よりいいものになっていっているわけで、そういうことをみんなが努力することは貴重なことでこそあれ、これに何らかの法的な規制を加えようなどという意図は毛頭ないし、そんなことはあってはいけないと思っております。
 バグというのは、確かにプログラムを作っていく過程で不可避的に発生するものですから、通常随伴するものが基本的に不正指令電磁的記録に当たることはないと、このことをまず申し上げておきますし、また作成罪、供用罪、共にこれ故意犯でございまして、故意という限りは未必の故意もそれはありますけれども、不用意にというようなものが未必の故意に当たるということはないので、未必の故意も故意の一定の類型ですので、普通にやっている分には故意にも欠けると。
 したがって、基本的にそうしたものは犯罪としては成立しないということでございまして、仮に、仮に、仮に、仮に、いろんな仮定を付けて、それでもなおこんな場合にも成立しないのかということになれば、例えば、プログラムのミスなどの偶発的な要因が重なって、そのまま実行すると使用者の知らないうちにハードディスク内のファイルを例えば全て消去してしまうようなプログラムが意図せずできてしまったと。まあそんなことはほぼ考えられぬと思いますが、そういうような希有な事態が仮に生じて、その場合に、そういうようなプログラムであるとの認識を欠いたままこれをインターネットの上に公開したと。
 そうすると、誰かがそのプログラムを見て、そしてこれはなかなか悪さをするぞという、そういうことが分かって、それを奇貨として、これをひとつはやらせて、はやらせてというか送ってみんなを困らせてやろうというような考えで、何か妙な、計画停電情報というような題名でも付けて、通常のワードの文書ファイルであるかのように装ってインターネット上に公開して、そして事情を知らぬ人をあえてだましてダウンロードさせて感染させて困らせてしまったと。
 仮にそんなような、もういろんな条件が重なって、不正な電磁的記録、要するにコンピューターウイルスをまき散らすようなことになってしまうことをあえて認識をしながら、それを認容して行ったというようなときには、まあそんなこともそれはあるかもしらぬなあというようなことでお答えをしたわけでありまして、こんな例外的な事情について一言で答えてしまった点は私の落ち度であったとおわびをしますが、もう一度言いますが、もうそういうことは基本的にはそれはあり得ないんだということをあえて申し上げておきますので、どうぞ国民の皆さんにも安心していただきたいと思います。

 コンピューターネットワークについて、私も自分のウエブサイトを開設をしてかれこれもう十年ちょっとになるかと思います。活動日誌を毎日更新しているので、時にフリーズしたりして困ることがあって、私なんかそんな技術もありませんからお手上げになってしまうんですけれども、しかし、今からもう、そうですね数年前ですか、コンピューターウイルスというのはなかなか大変だと、これはもうどうにもならぬと、アメリカの軍事技術からスタートしたコンピューターネットワークの世界だけれども、やっぱりこれはどこかでもう崩れてしまうんじゃないかと言われたような時期もございました。そういう時期を経て、しかし、やっぱり多くの皆さんが、コンピューターウイルスもどんどん進んでくる、それに対するいろんな対抗策もどんどん進んでくる、私なんかも、何といいましたかね、トレンドマイクロといいましたか、そんなようなものを入れたりとか、そのほかのアンチウイルスのソフトを入れたりとかいろんなことをやって、そして今のこういう時期になってきているので、やはり私はウイルスとの闘いというのはずっとこれからも続いていくんだろうと思います。
 そんな中で、やはりそういう社会的な信頼というのを守るに際して、その根源を作り出してしまう、社会的信頼を壊す根源を作り出してしまうコンピューターウイルスの作成というところに焦点を当てて、これに当罰性を持たせるということは必要なことだと思っております。
 ただ、コンピューターウイルスがどこかにあるんじゃないかといってどんどんどんどん捜していってというようなことができるかというと、それは捜査のいろんな手法についての司法チェックというのもあるわけですから、何かコンピューター監視のためにどんどん人のコンピューターの中へ捜査機関が入れるようになってしまうとかいうようなことはありませんし、また作成罪も、現実に摘発する場合には、それは一定の、コンピューターの不具合がいろいろ出てきたような場合に捜査の端緒をつかむというようなことがまあ一般的ではあろうと思います。しかし、やはり作成罪も当罰性があると思っております。

 ポップアップ広告のことを指摘をされましたが、まあポップアップ広告というのはインターネット利用者が通常予想し得る動作をするにすぎないと。しかも、これは社会的に許容されているものであると考えられますので、インターネットでいろんなサイトにアクセスするとそうしたものが出てくることもあるというのは皆分かっておることでございますから、ポップアップ広告が不正指令電磁的記録に当たるとは考えておりません。

 バグというものは、元々バグがコンピューターウイルスということはないんだと思います。しかし、バグとウイルスとの定義の仕方なんだろうと思うんですけれども、バグがあれこれあれこれ操作されて何か大変重大な影響を与えるような、コンピューターの中身を全部外へ出すとか全部消去するとか、そんなものに変質したときに元々バグから始まったんだからウイルスではないというようなことにはやっぱりならないんじゃないかと。もうこの段階になったらウイルスということになっちゃったと。それは作成には当たらないんですが、しかしそのなっちゃったものをあえてウイルスとして機能させようというので、これを使ったらこれは供用罪になるということを言ったわけでございます。

6/16

 バグとは、プログラミングの過程で作成者も知らないうちに発生するプログラムの誤りや不具合をいうもので、一般には避けることができず、そのことはコンピューターを扱う者には許容されているものと理解しています。逆に、このようなものまで規制の対象としてしまうと、コンピューターソフトウエアの開発を抑制する動きにつながり、妥当性を欠くと考えています。
 その上で、バグとウイルスに関する罪との関係について簡潔に述べると、作成罪、提供罪、供用罪のいずれについても、バグはそもそも不正指令電磁的記録、つまりウイルスに当たりませんので、故意や目的を問題とするまでもなく、これらの犯罪構成要件に該当することはありません。
 この点、私の衆議院における答弁は、バグと呼びながら、もはやバグとは言えないような不正な指令を与える電磁的記録について述べたものであり、誤解を与えたとすれば正しておきます。

 バグは、重大なものとはいっても、通常はコンピューターが一時的に停止するとか再起動が必要になるとかいったものであり、バグをこのようなものと理解する限り、重大なものであっても、先ほど申し上げたとおり、不正指令電磁的記録には当たりません。
 他方、一般に使用者がおよそ許容できないものであって、かつソフトウエアの性質や説明などからしても全く予期し得ないようなものについては不正指令電磁的記録に該当し得るわけですが、こうしたものまでバグと呼ぶのはもはや適切ではないと思われます。
 もっとも、一般には、そのようなものであっても故意や目的が欠けますので、不正指令電磁的記録に関する罪は成立しません。すなわち、作成罪であれば作成の時点で、提供罪であれば提供の時点で故意及び目的がなければそれらの罪は成立しませんし、そのプログラムを販売したり公開した場合でも、その時点で重大な支障を生じさせるプログラムであると認識していなければ供用罪は成立しません。

 フリーソフトの場合、特に使用者の責任において使用することを条件に無料で公開されているという前提があり、不具合が生じ得ることはむしろ当然のこととして想定されており、一般に使用者もそれを甘受すべきものと考えられますので、不正指令電磁的記録には当たりません。
 他方、例えば文字を入力するだけでハードディスク内のファイルが一瞬で全て消去されてしまうような機能がワープロの中に誤って生まれてしまったという希有な事態が仮に生じたとすると、そのようなものはフリーソフトの使用者といえどもこれを甘受すべきとは言い難いので不正指令電磁的記録に該当し得ると考えられますが、もはやこのような場合までバグと呼ぶのは適当ではないと思われます。
 もっとも、この場合でも、先ほど申し上げたとおり、作成罪は成立しませんし、供用罪も、重大な支障を生じさせるプログラムの存在及び機能を認識する前の時点では成立しません。
 そして、そのような問題のあるプログラムであるとの指摘を受け、その機能を十分認識したものの、この際、それを奇貨としてこのプログラムをウイルスとして用いて他人を困らせてやろうとの考えの下に、あえて、本当は文字を入力しただけでファイルを一瞬で消去してしまうにもかかわらず、問題なく文書作成ができる有用なソフトウエアであるかのように見せかけ、事情を知らないユーザーをだましてダウンロードさせ感染させたという極めて例外的な事例において、故意を認め得る場合には供用罪が成立する余地が全く否定されるわけではありませんが、実際にはこのような事態はなかなか想定し難いと思われます。
 このように、私が申し上げているのは、極限的な場合には供用罪が成立する余地がないわけではないという程度のものでございますので、御安心いただきたいと思います。

(付帯決議案の可決後)
 ただいま可決されました情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議につきましては、その趣旨を踏まえ、適切に対処してまいりたいと存じます。

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