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コロナ禍において、どのような情報を信用すればよいのか

2022年3月24日

2020年以来、COVID-19 (新型コロナウィルス感染症) が猛威を振るっており、パンデミックが続いています。日本においても、2022年初頭から、オミクロン株が主因の第六波により感染者が激増し、かなりの数の死者が出ています。

そんな中、「ワクチンはどうすればよいのか」「マスク着用にはどういった注意が必要なのか」など、個々人の判断でどうするかを決めなければいけない事柄が多々あります。本来ならば、「政府発信の情報を信用すればよい」となるのが一番良いですが、なにしろ統計改ざんまで行ってしまう日本政府ですから、平気で間違った事を言いかねません。何が正しくて何が間違っているのか、一般市民には簡単には判断できないのが現状です。

私個人は、かつて感染症研究も行った事がある生物学者なので(注:現在の専門は感染症ではありません)、経験と知識に基づいて、政府情報やその他情報の何が正しくて何がおかしいのか、かなり判断できます。しかしながら、「ここがこうだからこれはダメ、こちらは問題ない」と一言で説明できるようなものではないので、同様の判断を行うのは一般の方々にはなかなか難しい事だと思います。

そこでこの記事では、どういった事に注意すれば、少しでもより正しい情報を得られるのか、私なりの考え方をまとめてみる事にしました。

明らかに間違った情報

まず、明らかに間違っている情報について述べます。ここで述べる「間違った情報」を発信している場合、個人であれ団体であれ、その情報源を100%信用することはやめたほうが良いです。正しい事も言っているかもしれませんが、間違った事も言っていることが明らかだからです。

その「間違った情報」とは、ずばり「PCR検査をやりすぎると医療崩壊を起こす」といったたぐいの物です。こういった主張は「PCR抑制論」とも呼ばれます。PCR抑制論は主に2つの間違った根拠に基づいています。2つの間違った根拠とは、「PCR検査は擬陽性が出やすい」と「PCR検査は感度が低い」です。これらは、PCRに関してある程度の経験がある研究者・技術者なら、簡単に間違いだと気が付く事柄です。この記事ではなぜそれが間違いなのかの詳細な説明は割愛します(リクエストがあれば、別途記事にするかもしれません)が、なぜか日本では、この間違った根拠によるPCR抑制論がかなりの幅を利かせてきました。

従って、「PCR抑制論」を展開する、あるいは過去に展開していた情報源は、まず疑ってかかってください。正しい事も言っているかもしれませんが、間違いも含まれているからです。この中には、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会も含まれます。尾身会長はかつて、「無症状者にPCR検査しても感染は抑えられない」などと発言する、いわゆるPCR抑制論者の一人でした。その後「攻めのPCR検査」などと言って若干修正する姿勢を見せてはいるものの、かつての主張の間違いを認めて修正したとは聞いていません。分科会の他のメンバーでは、舘田一博氏が、「軽症例を全て検査していては、それこそ医療崩壊につながりかねません」と発言していた、典型的なPCR抑制論者です。彼も、その後の自身の感染に関して「今、冷静に考えると、なぜもっと早め早めに、PCR検査をやらなかったのかと思う」と言っておきながら、かつての主張の間違いを修正するそぶりは見られません。そもそも、分科会がPCR検査体制拡充の必要性をちゃんと進言していれば、日本の検査体制が先進国で最低レベルである現状は無かったはずです。

非政府の団体では、コロナ専門家有志の会がPCR検査抑制論を展開しています。今でも『本当は感染していないのに「陽性」と結果がでる(偽陽性)こともあります』と主張するページが修正されていません。コロナ専門家有志の会とそのメンバーは、間違いを主張する可能性があると思ってください。他にはこびナビがありますが、メンバーらによる議論を見ると、PCR検査による擬陽性の件で明らかに間違った議論がされていて、PCR検査抑制論者だと見てよいです。間違った事を主張する可能性があります。その他、PCR抑制論を展開する人たちは全員、「正しい事も言っているかもしれないが、間違った事も言う」と判断することをお勧めします。

個人の情報発信を100%信用することは禁物

PCR抑制論者が信用できないのなら、PCR推進論者が信用できるのでしょうか?残念ながらそんな簡単な事ではありません。一部の自治体が政府の方針に逆らって、PCR検査体制の拡充や積極的疫学調査を大々的に行っている所がありますが、そういった自治体の情報は日本政府よりは信頼性は高いものの、場合によっては間違いが含まれている可能性が排除できません。ましてや、個人の情報発信を100%信用するというのは、危険な事だと思います。

パンデミックのさなかで、世界中で情報があふれています。その中には正しい情報もあり、間違った情報もあります。学術論文でも、COVID-19関連は、査読(論文の真偽を評価する手続き)前の物が最新情報としてあふれていますし、査読を通った論文でも、内容に問題があって後に取り下げになったものが多数あります。こういった情報をちゃんと評価するのは、技術的にも難しく、かつ、骨の折れる作業なのです。一個人が、それを問題なくこなせているとは、あまり考えないほうが良いです。

WHOも、すべてが信用できる情報源ではない

どこで、そういった膨大な量の情報を吟味し、種々選択し、一般市民に情報提供しているでしょうか?先にも述べた通り、日本政府の情報発信には明らかな間違いも含まれており、それは期待できません。WHOはどうでしょうか?残念ながら、今のWHOが発信する情報にもろ手を挙げて賛成することは、私には出来ません。どういう理由か知りませんが、発信情報に偏りがみられ、その原因は政治的な事だと思っています。典型的なものとしては、2020年にパンデミックが始まった当初、WHOは "First, COVID-19 does not transmit as efficiently as influenza, from the data we have so far." (まず、COVID-19は、これまでのデータから、インフルエンザほど効率的に感染しません。)という、非常に楽観的な見通しを示していました。これは、世界的なパンデミックを引き起こした原因の一つとも言ってよいWHOの判断ミスですが、その後、この見解が明確に修正されたというニュースを私は知りません。最近の、ワクチンのブースター接種に関しても、主張の偏りがみられます。彼らが言っていることはおおむね良いのですが、時々間違っていると考えた方がよさそうです。

アメリカ CDC の情報はおおむね信用できる

アメリカ CDC (疾病対策センター) は、アメリカ連邦政府所管の、感染症対策の総合研究所です。アメリカ国内だけでなく、世界的な感染症対策においても一定の活動を行っており、感染症に関するプロの集団です(職員数、およそ1万5千人)。トランプ政権下においては、CDCはあまり信用できる機関ではなく、2020年2月にはCOVID-19に関して明らかに間違った認識を示しており、 2020年3月には使えないPCR検査キットを配布するなど、ミスが続いていました。しかし、2021年にリベラルなバイデン政権が発足してからは、見違えるようになりました。リベラルは、科学をとても重視する政治的派閥なので、それが良い方向に行っているように見えます。少し前の話になりますが、同じくリベラルなオバマ政権の頃、CDCがアフリカでのエボラ出血熱のアウトブレイクに対処した時(2014-2016)も、彼らの行動を頼もしく思っていたことを思い出します。

アメリカに居住している人ならば無料の日本語支援サービスもありますが、今この記事を読んでいる多くの方は日本に居住しているでしょうから、使えません。ただ、最近はwebの翻訳ツールが充実しており、例えばGoogleの翻訳ツールを使えば、CDCのwebページを日本語で閲覧できます。

Google翻訳経由でCDCのwebページ (https://www.cdc.gov/)の閲覧は、こちら

調べたい事柄の英語のスペルが分かっていれば、CDCの該当ページを検索することができます。例えば、オミクロン株とワクチンに関して知りたければ、「site:cdc.gov omicron vaccine」で検索すれば、次のページがヒットします。

Omicron Variant: What You Need to Know
Google翻訳なら、こちら:オミクロンバリアント:知っておくべきこと

こういった方法で、CDCが何を言っているのか調べて、参考にすればよいと思います。誰かの情報が、CDCの情報発信と合致していれば「なるほど、そうなのか」と解釈し、相対していれば「ん、なんか怪しいかも」といった具合です。

コロラド氏について

"Hiroshi Makita"と言う人がCOVID-19に関して情報発信しており、「コロラド先生」の名で通っていることは知っていたのですが、特にこの人の発言を追いかけているわけではありませんでした。ところがある日、彼のあるTWが目に留まっておかしいだろうと思い、それにコメントしたことでちょっとしたやり取りになりました。

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そのやり取りの後の私の結論は、

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と書いた通りで、話をしても意味のない人という評価です。しかしながら、「ちゃんと反論するべき」「反論がみんなのためでもある」というコメントをいただきましたので、ちょっとここでいくらか述べてみる事にします。

まず、問題点を整理します。そもそものMakita氏の主張はこうです。

 ・オミクロン株ではワクチンによる感染回避効果はない

これに対して、私はこう述べました。

 ・従来株に比べて感染回避効果が低いだけで、無いわけではない

それに対するMakita氏の返答はこうです

 ・ごく短期間、50%程度の有効性があるともされるが、わずか数週間
 ・その後は抗体依存性感染増強が疑われており、感染回避はできないと評価

これに対して私が、

 ・抗体依存性増強のリスクをはっきりと示した例は無いはず
 ・CDCはワクチンを打った場合のメリットがリスクを上回ると評価

と返したところ、いきなり長々と元々の問題提起とは異なる件に関してずらりとTWを述べた挙句、池乃めだかよろしく「今日はこのぐらいにしといたろ」的な「お引き取り下さい」で締めたわけです。加えて、「あなたは論文を読めない」という烙印を押してきました。私がこの人に「話をしても意味のない人という評価」を下したのは、先に書いた通りです。

ここでは、そもそもの彼の主張「オミクロン株ではワクチンによる感染回避効果はない」に主に的を絞って、議論してみます。彼の一連のTWを読んでみると、「感染回避効果はない」と結論付ける根拠は、次の通りです。

 ・短期間、50%程度の有効性があるともされるが、わずか数週間
 ・その後は抗体依存性感染増強が疑われている
 ・50%以下の有効性は実用ワクチンではない

一つ一つ、見ていきましょう。せっかくMakita氏がイギリスの報告書を参考文献として引いてきたので、その報告書をもとに見る事にします。図1bです。

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日本でも主流の、ファイザー・ビオンテック社のワクチンを、1回目・2回目に接種した人のデーターです。四角がデルタ株に対する発症予防効果、丸がオミクロン株に対する発症予防効果で、横軸は2回目接種からの経過週数です。なお、この報告書でも記述がありますが、感染予防効果を評価する場合、発症予防効果を見るのが普通です。デルタ株に対しては25週を過ぎても60%の発症予防効果があるのに対し、オミクロン株に対しては15週目までに20%弱まで下がりますが、ゼロにはなっていません。私が「従来株に比べて感染回避効果が低いだけで、無いわけではない」と言った通りです。ただし、Makita氏が言った「50%程度の効果が数週間」も正しいことが分かります。

次に、ブースターを接種した場合の効果を見てみましょう。

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同じく図1bですが、"BNT1632b2 booster"の項目を見てください。ファイザーのブースターを接種後の、デルタ株およびオミクロン株への発症予防効果のグラフです。2回目接種後と同じく、5-9週で50%ぐらいまで落ちているのが分かります。ただし、15週を超えるデーターを見ると、40%の予防効果を残しており、2回接種後に比べて長持ちしていそうです。

さらに、2回目まではファイザー、3回目にモデルナのワクチンを接種した場合のデーターを見てみましょう。

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一番右側、"mRNA-1273 booster"のデーターがそれです。14週目まで、60%以上の発症予防効果を維持していることが分かります。

Makita氏の主張「50%程度の有効性があるともされるが、わずか数週間」では、数週間たてば効果はほぼゼロになるというニュアンスですが、実際のデーターを見ればそうではない事が分かると思います。私が「従来株に比べて感染回避効果が低いだけで、無いわけではない」と最初に述べたのはこういった事で、これを「感染回避効果はない」と表現するのは、「聞き捨てならない」としたのです。

次に「抗体依存性感染増強」についてです。英語で ADE (antibody-dependent enhancement)と言いますが、これはデング熱などで見られます。しかしながら、COVID-19で大規模なADEが見られたという報告を私は知りません。臨床試験でも通常使用でも報告が無い以上、ADEは起こらないか、起こったとしても非常に低い頻度だと思われます。Makita氏は「疑われており」と表現しているので、どこかの論文でその可能性を指摘した類の事なのでしょう。論文の"discussion"のセクションなどでは、そういう議論が「可能性の一つとして」なされることもあります。いずれにせよ、私の「COVID-19のワクチンで抗体依存性増強のリスクをはっきりと示した例は無いはず」との指摘に対してMakita氏は何も答えなかったので、彼が何をもって「疑われており」としたのかはっきりせず、そういったはっきりしない事を根拠に「感染回避はできないと評価するほかない」と断ずるのは、科学的ではありません。

最後に、「50%以下の有効性は実用ワクチンではない」についてです。これについては、二つ議論があります。まず第一に、たとえ発症予防効果が非常に低いとしても、重症予防・死亡予防の効果があれば、それは十分実用ワクチンだという事、第二は50%以下の感染予防効果には実用性はないのかという事です。

まず、第一の議論から。同じく、イギリスの報告書で、入院予防効果についてみてみましょう。

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一番左が、ファイザーのワクチン接種後の、入院予防効果の時間経過です。20-24週目までオミクロン株の感染に関する入院予防効果が50%を超えた状態が続くことが分かります。真ん中のグラフがファイザーのブースターを、右がモデルナのブースターを接種後です。いずれも、80-90%の高い予防効果が得られることが分かります。グラフを見る限り、数週間で効果がなくなってしまうという事ではなさそうです。

二つ目の議論は、50%を切る感染予防効果が実用的なのか実用的ではないのかという事です。仮に、感染予防効果が33%と仮定して考えてみます。個人のレベルで見れば、3回感染の機会があった場合に、2回は感染で1回だけ感染回避という計算です。確かに、この数字だけ見れば効果はかなり低いように見えます。しかし、家族全体で見ればどうでしょうか。本人が直接外で感染して帰ってくるケースでは、同じように感染は3回に2回です。しかし、感染は家族内でも起こります。この場合、最初の一人が感染する確率は3分の2ですが、この最初の一人を通じて二人目にも感染する確率は同じく3分の2です。なので、自分は直接感染していないけれど、家族を通じて感染する可能性は、3分の2の二乗でおよそ0.44になります。実際には、ワクチンの重症化予防効果が高ければ放出するウィルス量も少ない可能性があるので、家族間の感染は3分の2より低いかもしれません。このように、家族が全員ワクチンを打っていれば、たとえ50%を切る感染予防効果であっても、家族全体では一定の感染予防効果を期待できます。

以上より、「50%以下の有効性は実用ワクチンではない」は非科学的な解釈です。

その他のコロラド氏の発言について

その他のMakita氏の発言について見てみます。

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ここで「あなたは論文が読めない」と烙印を押してきた理由は不明です。最初の方で述べた通り、数多あるCOVID-19関連の論文をすべてチェックするのは一個人には不可能で、その意味では私もすべての論文に目を通しているわけではありません。時々、気が向いたときにCOVID-19関連の論文を読んでみる程度です。だからと言って、私が「論文を読めない」とされるのは、心外です。先にも述べた通り、発表される論文は玉石混交で、ある論文にどれぐらいの意味があるかを見極める目が必要であり、そのためには自分自身が何報か論文を書く必要があると思っています。ではこの"Hiroshi Makita"と言う人が、どれぐらい論文を書いた経験があるのかと思ってPubMedで検索してみました。「Hiroshi Makita」と言う検索語で調べると一報だけ出ましたが、100人ほどの著者の一人で、どう見ても論文の全体像を構築した著者ではありませんでした。医学・生物系以外の論文だとPubMedでは検索にかかってきませんが、分野が違うと、生物系の論文をちゃんと読めるのかどうかは疑問が残ります。或いは、"Hiroshi Makita"はペンネームで本名ではないのかもしれませんが、そうであれば何とも言えません。なお、PubMedで私のフルネームで検索すると、主だった論文はすべて表示されました。ただし、20年以上前の古い論文は表示されなかったので、彼の論文は20年以上前の物のみの可能性もありますが。

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オミクロン株に関しては、日本でもかなりの感染者数です。2022年3月現在で人口当たりの一日の感染者数はアメリカを超えており、国ごとに異なると言っても、今の日本ではアメリカと同じような状況だと考えるべきです。加えて、日本では検査数が圧倒的に不足しているので、発表される陽性者数よりも多くの感染者がいるとみるべきで、そのことはMakita氏もわかっている筈です。CDCの見解を参考にしない理由にはなりません。

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チェリーピッキングと言うのは、Makita氏も言っている通り、自分の都合の良いようにデーターをつまみ食いする事なのですが、彼のやっている

 ・10週以上にわたって50%以上の効果が続く条件があるのに、数週間で50%以下と断言してみたり
 ・実際には報告が無いADEについて、疑ってみることで、ADEがあたかも現実に存在するかのような論理展開をしてみたり
 ・50%以下であろうともある一定の効果があるものを効果が無い(つまりゼロだ)と言ってみたり

するような事が、まさにチェリーピッキングです。私は、このTwitterでの議論の中で具体的な論文なりデーターなりを出さなかったので、私の今回のTwitterでの言動はチェリーピッキングには当たりません。なぜMakita氏が私との話の中でチェリーピッキングを持ち出してきたのかは不明です。もしかしたら、「自分もチェリーピッキングをしてしまわないか」という心配が、心のどこかにあるのかもしれません。

最後に

ここまで、COVID-19に関して、どういった情報を信用すればよいのかを述べてきました。私の結論は、

 ・日本政府の見解や個人の情報発信はすべて参考程度にとどめる
 ・大事なことに関しては、CDCがどう言っているかで確認する

です。政府見解や個人の情報発信がすべて間違っていると言っているわけではない事に注意してください。それらの情報の多くが正しくても間違いが含まれている可能性があって、それを確認するのが、CDCの情報発信です。アメリカの政権が代われば今後どうなるかはわかりませんが、少なくともバイデン政権が続く限りは大丈夫そうです。

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